風の言祝(ことほ)ぎ
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とっておきの文字があります。
白川先生の著作をもとに、古代文字の勉強をはじめて、今まで出会った文字の中で一番美しい文字。

【風】です。

よほどのことがない限り、この文字のことは話題にしないでずーっととっておこうと思っていたのですが、どうも今語るに相応しい出来事が近しい人の身に起こったようなので、思いきって今とり上げてしまおうと思います。


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【風】がまだ【風】と書かれていなかった時代、【風】は【鳳】という文字で表されていました。
(右図参照:正確には、後に「鳳」になる文字と同じ文字を使っていたということです)


けして目には見えない【風】という現象を、
鳥の羽ばたく姿に託して、見えるように形にしていたのです。

白川先生の研究において、鳥を象形した文字が持つ意味は重要です。
大空を自由に羽ばたき翔る鳥に、古代の人は神秘的な力を感じ、多くの祈りを託しました。

亡くなった人の魂を向こうの世界に届ける存在として、
あるいは、亡くなった人その人の化身として、
また、天空から舞い降りる鳥の鳴き声に、
神さまの声を聴こうともしました。

【風】も森羅万象の成せる技ならきっと神さまの行いに違いない。
そこで古代の人は鳥になぞらえて神獣である鳳凰の形を描き、【風】としました。

土地の文化や産物のことを「風俗」や「風物」というのは、
鳥の形をした風神(鳳凰)が各地に出かけて行き、
そこの人々に影響を与えて生まれたものであるからだと先生はいいます。


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「いつもいい風がこの子に吹きますように…」
宮崎駿の描いた物語「風の谷のナウシカ」で幼い子供の幸せを願って、部族の人々がこぞって口にする台詞です。
はじめて読んだときなんて素敵な言葉なんだろうと思いました。

こんな言葉もありました。
物語中、ずっと旅を続けるナウシカの来訪を受けた異国の僧正が、その死に逝く間際に残した言葉。
「風が来ました。やさしく猛々しい風が…」

思うに【風】という言葉には、常に生命力のような意味合いが含まれていると思います。

風が好きです。
この奈良盆地に吹き込む風は、秋冬ともなるとこの土地に強烈な極寒をもたらしますが、
だからこそこの土地には龍田明神という風を司る神さまがいますし、
この神さまは、聖徳太子が法隆寺を建てるとき、自ら「守り神になってやろう」と老人の姿を借りて人々の前に現れたという伝説も残っているくらい土地に根付いた神さまです。
そう、この土地「奈良」は風に守られた土地なのです。

去年、住む街選びで県内各所をうろうろしていた頃から、この土地には常に山から吹き下ろす風があることを知っていました。(それは僕が生まれた街も例外ではなく…)
昨日、友達の日記に「風」という文字をみつけて、ふいにそのことを思いだしたのです。
そしてある古い詩のことも同時に思い出しました。


今日は最後に風にちなんでこんな詩を引用させて下さい。
中国最古の歌集「詩経」の一説です。
この詩も白川先生の研究以降、随分その解釈が変わったようです。
最新の解説書を元にした訳をつけておきますが、
僕なりに簡単な言葉に変更した文章になっている点だけご了承ください。


鶴 九皐に鳴き 声 野に聞こゆ
(蛇行する沢に鶴は鳴き その声は野にも届く)

魚潜みて淵に在り 或いは渚に在り
(魚は深き淵に泳ぎ また浅き水辺に泳ぐ)

楽しきかな彼の園は ここに樹檀有り 其の下にこれ擇あり
(めでたき彼の国の地はムクノキが茂りニワウルシが繁る繁栄の地) 

他山の石も 以て錯と為るべきならん
(ここに嫁ぎし他国の娘も、玉を磨く砥石のごとく立派な妻となろう)

宗廟において新しく迎えた花嫁とその故郷を讃え、結婚を祝福する詩なのだそうです。
「他山の石」というのは他部族から来た花嫁を比喩表現したもので、
「以て錯と為るべきならん」とは立派にその役目を果たすだろうと言祝(ことほ)ぐ句なのだそうです。
また、「楽しきかな彼の園は〜」のくだりは、嫁いで来た花嫁の祖国を讃え、更なる繁栄を祈願する言葉なのだそうです。
最後に「鶴」はその地に降り立った氏族の神様を象徴しており、「魚」はその繁栄の象徴として歌われたものであると、僕の手元にある解説書は結びます。

年始からのばしている髪が、いよいよサラリーマンらしからぬ長さになってきました。
それが風になびくのがなんだか心地いい季節です。
(もうすぐめちゃくちゃ寒くなるんですけどね…)

あっちにもこっちにも、
「いつもいい風が吹きますように…」
そう願ってやみません。
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by chii-take | 2007-10-02 04:41
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