とっても うれしかったこと
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キヤノンではじめて写真に日付を写し込めるようになったカメラだから…、
その名も「キャノデート」
手軽にデートにも持って行けるような、いつでも一緒に持ち歩いて欲しいカメラだから…、
その名も「キャノデート」


ふざけた名称です。ダサい。
でも確かにわかりやすい。
優れたネーミング。よいデザインです。

1970年の発売。
どうやら僕より年上だ。
入れられる日付は’92年までしか設定されていなかったから、
もうとっくにキヤノンの使用想定年数は過ぎていると思われる。
ずっと気になっていた…。
昔親父が使っていたカメラ。



「高い買い物やったのに、一度もよう使いこなさなかったんよ。この人」と母は言う。
オートフォーカスが出てから、ずっとお蔵入りしてしまっていたこのカメラ。
まだ僕が生まれる前から、僕の家族を見つめていた。

「ええレンズがついとったんやで。高かってんけど、思い切って買うたんや…」
親父は誇らしげに言うが、アルバムをめくっても確かにばっちし撮れている写真は少ない。


夏に実家に帰ったときに持ち帰った何枚かの写真。
まだ幼い自分と家族を見ながら、どうしてもこのカメラを手にしてみたくなった。
まだ捨てずに残っているのか、それすらもわからなかったけど、放っておく手はない。
単純に“ええレンズ”に惹かれたというのはある。
でも、ただ無性にこのカメラに会いたかった。

発掘作業は案外手間取らなかった。
机の引き出しにしれっと収めてあったのには多少驚いたけど、
高かったというからにはそれなりに大事にしていたと思われる。
わくわく胸躍らせてレンズキャップを明けてみたけど、そのとき僕はいくらか落胆した。
40mm F2.8のレンズ。(実は秘かにもう1段階明るいF1.4期待していた。高いというならそのくらい…)
おまけに一眼レフではなくて、これはコンパクトカメラではないか…。
憤慨やるかたない気持ちを抱えてはいたけれど、
ま、性能はともかく状態はキレイだし、まだ使えるのではないかと、持ち帰って近所のカメラ屋さん持って行く事にした。
実は手動巻きのカメラなんてはじめて手にするものだから、まったく使い方がわからなかったのです。



親切なカメラ屋さんは、薄〜い目を丸く見開いてカメラを見つめて、
「もう今はないタイプの電池を使うカメラやからなあ、そこが問題やなあ」
といいながら、おもむろにアダプターをとりだして、今の電池でも動くようにしてくれた。
なんだか古いカメラを触る慣れた手つきが、とても楽しそうだった。
何より初心者の僕に古いカメラの使い方を教えることを楽しんでくれているようだった。
終始笑顔。

いろいろ試した後、
「油が足りてないみたいやけど、シャッターは開いているから撮れる思いますよ」
と言ってくれて、
「ええレンズついてるし、使わんともったいないですな」
とニコニコと仰る。

(ええ? ええレンズか? これが?)

と内心動揺しながら、フィルムを購入。
入れ方もわからなかったので、
「最近写真をはじめたところで、デジタルばかりでやってきたんです」
と言い訳がましく言うと、
手際良く順序を説明してくれながら、実際にフィルムをセットしてくれて、
「フィルムはいろんな種類があるから、いろいろ試すと楽しくなると思うよ」
と怪しげな勧誘を受ける。表情は笑顔やのに目が真剣だった。

そうか、このお店はほとんどデジタルカメラばっかり並べてるけど、この人はフィルム派なのか…と思っていたら、
よく考えたら一定年齢以上の人でカメラを使ったことのある人は、みんなもともとフィルム派だったんだということに気づく。
だってそれしかなかったんだものね。



話は変わるけれど、
記憶媒体が違うだけとはいえ、本来デシタルカメラとフィルムカメラって違うものなんじゃないかと最近は思う。
写真のことを勉強すればするほどそんな気がして、同時にフィルムへの憧れは強くなっていった。
デジタルが悪いとは思わない。
ソニーも松下もよくやっていると思う。
ミノルタはそんな“電子機器”の競争についていけなくなったからカメラ事業をソニーに売却することになった。
でも、そういう時代の流れとは違うところで、『写真はあくまでも写真であった』と思う。

フィルムが写真の王道だと言いたいんじゃなくて、
だからといってデジタル路線が正しいというのでもなく、
ただより身近に、より美しい風景を記憶させる術をユーザーに与えること…、
それに注力した人々の努力を僕は嬉しく思う。
それはデジタルの分野でもアナログの分野でも。

僕が「こんな古いカメラやけど、フィルムを使いたいんです」と言ったら、
カメラ屋のおっちゃんは喜んで迎え入れてくれた。
「それはそれでいいんです」という声を聞いたような気がした。
正直ありがたかった。




カメラ屋さんに行った明くる日、
本当に撮れるのかと不安になりながら、僕はいつもの散歩道でカメラを構えた。
早朝の奈良。

親父を悩ませたピントは確かに合わせづらかった。
鈍いシャッターの音。
撮りきったあとに手動で回す巻き取りレバーの重み。
撮ったものの重さであると同時に、止まっていた時間の重みだった。

「撮れてない可能性もあるんですけど」と言って持って行った現像。
古いカメラを見て、なぜか受け付けてくれたおっちゃんも嬉しそうに微笑んでくれた。

結果はご覧のとおり。
ピントが甘いせいなのかどうなのか…、
とにかく柔らかい粒子の感覚を目の当たりにしたとき、デジタルのときにわずかに溜まっていた僕の不満は吹き飛んだ。
ああ、この感じはいい。
そんな感じ。
嬉しい。
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一番嬉しかったのは20年越しに、このカメラが僕の新たな家族を写し撮ったこと。
残念ながらその写真は(本人が嫌がるので)お見せ出来ませんが、
これからもこのカメラが僕の家族を見つめていってくれることに間違いはないと思うのです。
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by chii-take | 2008-01-18 02:21 | Comments(6)
Commented by やすじじ at 2008-01-18 09:36 x
『デート』って響き、結構好きです。
今はあんまり言わないかもな。

めっちゃ素人意見として聞いてほしのですがーフィルムってさ
『今、響いたこのシャッターの音が、何を切り取ったか』
ってのが分からない所が一番の特徴だと思う。

もどかしくて
でもかなりお楽しみ。

プロなら、それもとっくに分かってるんだとは思うけどね。

私のお父さんも、古いカメラ持ってたなあ。
私たちを撮ってくれたやつ。
『父親のカメラ』
これもいい響きです。まだあるのかなあ。
Commented by どんげ at 2008-01-18 13:42 x
ネーミングも、見た目も可愛いカメラですねえ!
鹿を撮るあたりがまたドメスティックで素敵。
気のせいか昭和の匂いを感じます。

恥ずかしながら、我が家には未だにデジカメがありません。
古いカメラのよいところは 紙 にあるのではないでしょうか。
デジタルだと、必要もないのに紙にして残すことは少なくなって
しまうのではないだろうか。

私事ですが、わが家にはわたしだけのアルバムがあります。
親が撮ったやつではなくて、その日その時をつれが撮ったものです。
馬鹿馬鹿しいので誰にもお見せできませんが、
大切な記録はアラーキーにも勝ります。
ここ数年は子どもの写真ばかりですが。

彼女の可愛さ、美しさ、たくさんたくさん撮れますように。
惚気 そして 余計なお世話でした。
わはははは・・・ (と歩み去る)


 
Commented by ちいたけ at 2008-01-19 01:41 x
>やすじじ
僕も素人なのでシャッター押した時点で結果はわからない。

僕の感覚ではデジカメは雄弁でおしゃべり上手。
訊いたことには何でも答えてくれる。
これはどう?
それならこっちでどう?
モニターを通して全部その場でやりとりできる。

フィルムはそうじゃない。
「つべこべ言わずにさっさと押せ!結果は追って沙汰する」
そんな感じ。
プロでも一枚一枚露出変えたり、カメラ自体二台使ったりして、この寡黙な野郎とつき合ったりするらしい。

カメラもそれぞれだ。

親父のものを引き継ぐという感覚は、けっこう幸せな感覚です。
そんな風に思えるようになった30才です。
俺の方が絶対うまい。
Commented by ちいたけ at 2008-01-19 01:56 x
>どんげさん
しますね。昭和の匂い。
見た目もかなり気に入っています。

実は僕は紙にはプリントしていないんです。
現像だけしてもらって、それをフィルムスキャンにかけて画像にしています。
「なんと味気ない」というのもわかるんですが、整理が大変なのでそういう風にしています。それに結局はブログ用の写真なんですね、実際。
デジタルで持ってる方が掲載したいときに手早くできるので…。

アルバムの話。素敵です。できれば僕もそういうのを作りたいんですが、残念ながらうちのヨメ、写真に写るのが嫌いなんです。
だから恋愛中も今もほとんど写真に写ってません。
最近ちょくちょくありますが、まあ、数えるくらいです。

そのアルバム大事にして下さい。すばらしい財産だと思います。
Commented by ゾノ at 2008-01-21 02:13 x
私、ダンナと恋人やった頃にダンナの写真集を作った事がある。
デザインしてプリントして、
手作りの製本して厚紙つけてハードカバーに......
いや、これが結構きれいにできるねん。
渡した時、ダンナ号泣。
もちろんこっぱずかしくて誰にも見せれない。
けど今も作ってよかったって思う。
いい写真が撮れたから、いいカメラ....
そうなんじゃないかと思う今日この頃です。
Commented by ちいたけ at 2008-01-21 02:58 x
>ゾノ
ウオ!
なんや、藤代冥砂みたいな人がいっぱいおるやんけ。
ちょっと感動。
( ^ー゜)σ 泣いたのはダンナだけ?

うちも作らなあかんかな?
いや、作らしてもらえるんかな…
今度『もう、家へ帰ろう』を見せてこんなんどう?って訊いてみようかな?
そーか隠し撮り写真集?
ちょっと恐いなあ…。


>いい写真が撮れたから、いいカメラ....
うん、もちろん!

久しぶりにフィルムで撮って、あらためてデジタルの良さも再認識して、なんだか最近二刀流です。
いつかゾノに筋トレをしろと言われたこと。身にしみています。

最近三脚を買いました。
やっと僕の身長でも立ったままでファインダー覗けるやつを手に入れた。
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