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I 'm a Keeper
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思わぬ再会。半年ぶりとはいえ、嬉しい再会。

嬉しいなら、すぐにでも嬉しいという顔をすればいい。
何も言葉で表さなくったってそれだけで充分伝わる。

なのに、今嬉しい顔をしたら変に思われるんじゃないかなとか、
失礼に当たるんじゃないかなとか、
頭の軽い人間に思われるんじゃないかなとか、よく分らない逡巡にかまけて、
表情に出すタイミングが一瞬遅れると、結局何も言えないまま、
そのままズルズルと嬉しい時間は過ぎていく。

今まで何度もこんな消化不良な時間を過ごしてきたくせに、
相変わらず不器用な僕は今でもこんなモジモジ君がやめられない。


終電間際の混んでる電車。久々に元チームメイト3人で並んでみて、
あの頃それがどんなに恵まれていることだったか知らずに過ごしていた自分を発見して、
今からでも行って張っ倒してやりたくなった。

自信なんて微塵もなかったけど、自分たちの仕事に疑いなんてものを差し挟む余裕もなく、
ただ目の前のビジュアルに一途だったあの頃。
駆け出しのグラフィックデザイナーはある意味無敵だった。

時間も経ってそれぞれの道を選んで、厳しい現実が見えるようになると、
自分たちの立たされた現在地に目も眩むような思いの日々。

僕たち三人はクリエイトのバランスについて話す。
自分の世界を表現したいという欲求と、仕事で表現させられている世界の違い。

デザイナーだもの。人のためにつくってなんぼの世界。
でもそれだけだと、いつか感動は枯渇する。心は震えなくなる。


思えばこのブログで言葉を綴ることが、僕の心の均衡を保つ唯一の方法になっていた。
心の調弦。


わずかな再会の時間の間に先輩のもらした一言が僕の心にいつまでも残っている。

「私でゴメン」

お客さんの満足が上手い具合に得られなかったときに思うのだとか…。

つらいとか悔しいとかそういう感情に感化されたんじゃなくて、
どこまでも人のために在ろうとするその先輩の変わらない姿勢に、
その恭しい態度に僕は烈しく共感した。

それは自分とは別の可能性が確かに存在するということを自覚している証拠。
それでも縁があってその仕事は自分に課せられた。
なら精一杯やって見よう。うまくいかなかったらそのときは…。

「僕でごめんなさい」

でもそこから逃げようとは思わない。
上手く行こうと行くまいと、縁があったことに意味がある。
自分と相手とのそのたった一通りの組み合せが生み出す可能性。それにこそ意味がある。
そうでなかったら、代わりなんていくらでもいるこの世界で僕らが生きる意味なんてある?
個性なんて安っぽいものを糧に僕は生きてはいない。


もうすぐ野球のシーズンが終わる。
そうすると日本では盛んではないけれど、本場アメリカではバスケットのシーズンが始まる。
昨年のファイナル。優勝を争うチームに怪我をおして出場しつづける選手がいた。

目元には涙のタトゥー(刺青)。
首筋には「I Am My Brother's Keeper」の文字。
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心臓の疾患と戦いぬいて他界してしまった弟を偲びいれたタトゥー(私は弟のことをずっと見守っている)。
故障した箇所に相当な痛みがあっても、その選手は「こんな痛みは(弟のそれに比べれば)大したことではない」と、コートに立ち続けた。
試合毎に落ちていくスタッツ。彼は一試合で2得点しかとれなかった試合を最後に出場を断念したけれど、
その試合でチームはあと一敗で敗退が決まるというところまで追いつめられていた。

結局昨年そのチームは優勝を逃したわけだけど、
ファンもメディアもチームメイトも、誰もその故障した選手を責めたりはしなかった。
コーチはどんなに調子が悪くても、結果が伴わなくても、
その選手が不動のレギュラーであり、コートに立っているだけで意味があると明言した。
彼がコートに立つ意味を誰もが理解していたし、彼の孤独な戦いに、チームは数字には表れない力をもらっていたから。
今年、僕はもう一度ファイナルの舞台でその選手を見たい。
今度は万全の体調で、彼がコートに立つ意味をもう一度見せてほしい。


ときどき考えること。

どうして僕じゃなかったんだろう?
どうして神さまは僕でなく姉を選んでつれていってしまったんだろう?
空気がいいからと移り住んだ奈良。姉には手遅れだった?

結局僕にはなんの記憶も残らず、ケンジという姉のくれた名前だけが残った。
宮沢賢治と同じ名前。
両親は「健康を志す」という祈りを文字に託してくれた。

宮沢賢治の詩で最も好きな詩は、やっぱり「雨ニモマケズ」。


アラユルコトヲ
ジブンヲカンジョウに入レズニ
ヨクミキキシワカリ
ソシテワスレズ


気づきました?
これ、実はデザイナーには必須の条件なんですよ。


「僕でごめんなさい」
ときどきそんなことを思ってきたけれど、
でも、僕は、だからこそ、今を精一杯、自分を精一杯、何かのために使おうと思うのです。

白川先生によると【保】という字は、生まれたばかりの子供に祖先の霊を憑りつかせ、それを守るための産着を着せて抱く形を象っており、「たもつ、霊をまもる、たすける、やすんずる」の意味に用いるといいます。
by chii-take | 2007-10-20 06:17
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